航空機に使用されている代表的な積層型複合材は,炭素繊維のシートを何層も重ねて樹脂で固める方法で作られており,CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれています.このような積層型複合材は,金属と比べると強度や剛性が高く,軽くて強い機体を作ることが出来ます.一方,そのような積層型の複合材の弱点として,層と層の間の強度が弱く,鳥や工具が機体に衝突した時などに層間が剥がれてしまうという現象が発生してしまいます.
そこで,層間を剥がれにくくするために層と層を縫合(ミシンのように縫うこと)により層間の剥がれにくさを強化する研究を行っています.図は,Vectranという糸で炭素繊維を縫合したCFRPです.Vectranは、長期にわたり水を吸わず,破断伸びも大きいことから,耐久性や吸収エネルギー特性の面で縫合糸として優れた特徴を有しています.
縫合した層と層の剥がれにくさを実験的に評価するためにDCB試験と呼ばれる割りばしを引き裂くような試験を行います.我々が研究しているVectran縫合複合材は,従来の積層型複合材や既存の縫合複合材と比べて40%近く剥がれにくさを向上させています.
航空機構造などの構造物は,傷が発生したとしても人間のように悲鳴をあげません.したがって,構造に損傷が発生したとしても普段人間が観察出来ない構造内部の隠れた部品の健全性を評価することはとても難しくなります.このような隠れた部分の構造健全性を評価するには,例えば自動車の車検ように数年に一度点検する機会を設ける必要があります.しかし,車検もお金がかかるように航空機の点検にも莫大な費用がかかりますし,点検からしばらく時間が経過した後の健全性を確実に保障することはできません.
そこで,航空機複合材構造に人間の神経のようなセンサを配置して,損傷が発生した場合に我々に警告を発してくれるシステムの研究を行っています.損傷を検知するセンサとしては,複合材構造の中に埋め込み可能な光ファイバーセンサを採用しています.本研究で使用している光ファイバーセンサは,構造の伸び縮み(歪)に反応することができるもので,損傷の発生による異常な伸びや縮みを検知することができます.
我々の研究では,複合材構造を接着で組み立てた場合に強度的に弱点となりやすい部分に注目し,この部分に光ファイバーセンサを配置することによって構造健全性を評価する研究を開始しています.図は,CFRPを2枚を重ね合わせて接着した間に光ファイバーセンサ(黄色の糸)を埋め込んだものです.
スマート構造とは,環境の変動に応じて構造自体の特性を自律的に適応させ,構造システムに課せられた仕業を絶えず最適化しようとする設計思想によるものです.具体的には,制御機能と構造機能が区別できないほどスマートアクチュエータ・スマートセンサが張り巡らされた分布制御系の形態を取ります.本研究では,制御対象を分布定数系のままモデリングし,その物理特性に依拠した制御理論を展開することで,スマートセンシング機能・スマートアクチュエーション機能・スマートコントロール機能を三位一体とする構造制御システムの設計を行っています.
振動現象をモードではなく,波動あるいはパワーフローの観点から捉えることで,構造物中のある領域に無振動状態を生成させます.これにより,例えば,機体にクラックが発生した場合に,進行波がクラック周辺(嫌振領域)に流入しないような制御が可能になります.
構造振動レベルを抑制することは,必ずしも騒音レベルの抑制には帰結しません.それどころか,逆に騒音が増大してしまう場合もあります.そこで,振動場と音場を有機的に結合する「音響パワーモード」をスマートセンサによって計測し,これを抑制することで振動放射音の静粛化を図ります.